「ちっ……このトカゲがっ!!」
目の前に立ち塞がった巨大トカゲに仲間と共に立ち向かう槌使いの男性、ハーグ。
それまでより更に深く踏み込んでのモールの一撃が、巨大トカゲの頭部を叩き潰す。
手強くはあるが、どちらかと言えば耐久力的にそう感じるのだろうか。
十分な満足感という物が得られなくなって久しいと、ふと考える。
「やべえなぁ……いつの間にか、戦闘中毒にでもなっちまったか……?」
ダンジョンを進み、討伐依頼の対象だったのだろう超巨大トカゲを前に思わず苦笑したハーグ。
何せこの恐るべき敵を前にしてすら、闘争心に火が付かないのだ。
面倒くさそうにモールを担ぎ上げ、仲間と共にトカゲへと突撃していく。
――――その結果は語るまでも無い。
しかし、彼の中で燃えている情熱の炎は確実に小さくなっていた……。
一方数度目になる珍しいキノコ探索の依頼に向かった弓使いの少女シェリー。
数ヶ月前に迎えた誕生日に、叔父から貰ったリボンを首に巻き付け洞窟を進む……と。
「っ……!敵が多いっ!」
洞窟内で進む場所進む場所にモンスターの群れが存在し、じわじわと傷が増えていく。
そして、もう4,5回は戦っただろうか、オークの群れに襲撃され……。
「っ、しまっ……」
オークの一体が振るった斧が、腹部にざくりと突き刺さり彼女の意識は闇へと沈んでいった。
最後に仲間達の逃げる足音と、それを追う敵の足音が……。
「……うあ!?あれ、此処……生きてる?」
全身に痛みが走り、目が覚めると見慣れた部屋。だが、自分は死んだはず……。
そんな事を考えながら体の状態を確かめると、腹部にはうっすらと傷の跡、そして……。
「おう、今度のも本物だったか……運が良かったな、シェリー」
千切れた白いリボンを手に、湯を入れた桶と布を運んできた叔父の姿。
「まあお前は死んじまった訳だが……そのリボンのおかげで生き返れたと。ミリィと同じだな」
取りあえず落ち着いたら使え、と言いつつ桶を差し出す彼に、茫洋とした顔で頷く。
「で、だ……しばらく冒険者は無理だろうが、どうするんだ?此処で家の番でもするか?」
「……やらせて貰えるなら、療養ついでにやる。ご飯も食べられそうだし」
「よし、じゃあ給料はしっかり出してやろう」
「助かる」
……こうして、弓使いシェリーの冒険者としての人生は、一旦幕を閉じたのだった。
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