「あー……何だろうな、最近歯応えのある依頼が無えし、つまんねぇなー……」
ハーグと言う名の男が気怠げに呟き、酒場で酒を呷っている。
ここ数ヶ月の間に幾らかの冒険をこなし無事に帰ってきたこの男。
既に冒険者としてはかなりの手練れの証である「練達」の称号を得ているのだが。
「運が良すぎるのも困りものだよなぁ……すぐに目当ての敵が見つかっちまったら楽しめねぇ」
そう、ここ数日の冒険は精々4つか5つの部屋を越えてすぐに標的を発見しているのだ。
冒険を楽しむ事が主な目的となっている彼にとっては退屈この上ない。
現に、ここ3ヶ月で情熱は3分の1ほど減少しているのである。
「初めて防具を手に入れたってのは嬉しいが……やっぱり欲しいのは楽しめる依頼だぜ……」
標準的な作りの帽子をやや目深に被り、愛用のモールを脇に置いて呟く。
余り退屈な状況が続けばそろそろ兵士に戻るのも良いか、と考えるのだった。
一方こちらはミリディアナと呼ばれる少女である。
彼女は以前の依頼失敗から気を引き締めたのか、順調に依頼をこなしていた。
多い時には一度の冒険で5体以上の魔物を屠る事もあり、槍捌きにも磨きがかかってきた。
「ふぅ、今回の依頼はこれでお終いですわね……」
コボルド二体を纏めて槍で貫きつつ、小さく息を吐く。
その視界の隅では敵のリーダーを仲間の剣が切り裂くのが見えていた。
「けれど、時々割に合わない依頼もありますわね……難しい所ですわ」
ここ数日の依頼をこなす過程で、手に入れた品物は魔法の媒体となる出来の悪い杖。
魔法の心得も多少はある物の、才能も適性も無いと聞いている為使わないのである。
本音を言えば槍や盾が欲しいのだが、そう上手く行くはずも無く。
剣や護符などの使えそうな代物も他の物が入手しており、手に入れられなかったりするのだ。
少々彼女にとっては面白くない事もあるが、そういう物だと割り切っている。
「やっと一人前として認められましたし、お兄様の様になる為もっと頑張らなきゃですわ……」
その「お兄様」から16を迎えたお祝いにリボンが届いたのは町に戻った後の事。
彼女はその赤いリボンを、生涯大切にし続けていたというのはまた別のお話。
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