「凍れっ!」
青年の叫びと共に、指に嵌められた青い宝石から氷の魔法が迸る。
コボルト退治の依頼を受けた青年・セドリックの魔法が敵を一瞬で氷漬けにした。
「ふぅ、槍に慣れすぎてたけど……カンは戻ってきてるな。よしよし……」
満足げに息を吐く。元々頭脳労働派だと言っていた通り、彼は魔法の方が得意なのである。
とは言え数年の冒険者稼業で槍術も覚えた為、今は依頼によって使い分けている。
「まだ怪しい依頼では槍の方が使えるからなぁ……気を抜かない様にしないと」
彼の気苦労はまだまだ絶えないらしい。
一方その頃、人里離れた森の奥。
「ヒャッヒャッヒャッ……そうら、仕舞いじゃ」
不気味に脈打つ毒々しい紫色の表紙をした魔導書を手に少女が嗤う。
されどその幼い声音に乗せられたるは外見とは似ても似つかぬ老いた台詞であり。
敵を殺戮する事を楽しむ、邪悪な愉悦が明らかに感じられる。
「しかし……そろそろ防具も欲しい所じゃのう。老体には堪えるわ」
ゾンビの群れを影の蛇で呑み込み、喰い尽くしつつ少女が呟く。
幾度か深手を負い、返礼とばかりにその敵の命を喰らう。
その様な依頼を数ヶ月こなしているが故の台詞だった。
その頃、薬草売りのロランは使い慣れぬ剣を再び手にしていた。
何の事はない、その方が情熱が戻るだろうと助言を受けたからである。
とは言え元々メイスも多少は使えるといった程度であり、差は殆ど無かった。故に。
「おじさん……ボク、ボク……」
「おいおい、何を泣いてるんだよ。ほれ、泣くな」
「あっ……」
情熱を殆ど失いかけている彼の頭を、無骨で大きな手が包み込み、くしゃくしゃと撫でる。
その感覚に僅かに鼓動が早まるも、きっと照れているのだと自分に言い聞かせ。
「でも、やっぱり……そろそろ元のお仕事に戻るのも良いかも、って……」
だって怖いもの、と俯き加減に漏らすロラン。その表情はやけに可愛らしく、そして儚く見えた。
そして、新たに家族となった少女・ロストはと言えば。
「絶好調……っ、荷物がないだけでこんなに軽く動けるなんて♪」
愛用の杖を振るい、雷を次々と敵に浴びせかける。
巨大な生物や巨大ムカデなど、強敵相手と思われる依頼を難なくこなし。
更には今回オーガ討伐の依頼でも立ち塞がる敵を次々と雷で消し炭に変えていく。
「ああ、快感……っ。もっともっと、かかって来なさいっ……!」
全身に雷を纏いながら歌う様に声を上げる少女。
彼女の力は、雷の魔術師としての称号を与えられるまでに至っていた。
「本家からもお墨付き貰ったし、今の私に怖い物なんて……あ、結構あるかも……」
とは言え力に溺れる事はしない。高揚はすれど興奮に呑まれはしない。
少女はしっかりと現実を見据え、力を振るっていた。
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