「てやぁぁぁぁぁっ!!」
鋭く突き出される槍の穂先が手練れの狼の頭部を貫く。
巨大ムカデ討伐依頼を受け、洞窟へと踏み込んだ彼らであったのだが……。
「どうやら此処のムカデは雄みたいだね。雌なら子供が居るから、巨大ムカデが居てもおかしくないのに。
それにエサを狙ってる大蛇も居なさそうだ。此処のムカデはまだそんなに育ってないのかな?」
と、これまでの経験から相手の状態を推測する彼。
槍術も中級者と呼ばれる程度には使える様になり、熟練の称号も手に入れている。
それなりに堂に入った説明に仲間の皆も頷き、最深部を目指していき……。
立ち塞がる狼の群れを三度撃退し、見事に討伐の標的を仕留めたのだった。
その頃、薬草売りのロランはと言えば。
「わぁぁぁん、来ないで、来ないでよ~!!」
と言う感じに泣きながらも、自身を触手で絡め取ろうとするオーカーゼリーを殴打していた。
その手には木製のありふれたメイスが握られている。
森の精霊の血を引く彼にとっては鉄製の武器より余程馴染んでいるらしい。
オーカーゼリーを仕留めた彼らは森の奥にてコボルドの群れと対峙する。
今回の標的である彼らなのだが……。
「え、何で、何で僕の方に来るの~!?」
同行者には確かに男性が多い。唯一の女性も弓手として後方に居る。
なのに、何故か血走った目でこちらに迫ってきている様な……?
「わ~ん、やだ、やだぁ!!」
必死でコボルドチーフを殴る、殴る、殴る。
ああ、でも何故か相手の顔に恍惚の表情が浮かんでいる様な……?
「いやあああああっ!!」
可愛らしい悲鳴と共に振り下ろしたメイスの一撃で、遂に倒れる敵リーダー。
後に残ったのはえぐえぐと泣くロラン君と、微妙な空気の一同でしたとさ。
遡る事数日、闇術にも慣れてきた魔女・セラはと言えば。
「キヒヒヒヒッ……もう逃げられぬぞぇ?観念する事じゃ……♪」
闇の魔導書より放った影で縛られた大蛇を前に、舌なめずりせんばかりの表情で述べるセラ。
大蛇も必死に体をくねらせているが、拘束は解ける事がない。
「丁度この書の表紙が傷んで負ったからのぅ……蛇の皮での、毒蛇の皮なら尚うってつけじゃ」
ニタリと笑みを浮かべ、幼い少女の声色が呪いの句を紡ぐ。
途端、大蛇を拘束していた影が蠢き、敵から皮を剥ぎ、肉を喰らい血を啜っていく。
やがて影が書に吸い込まれていき、後には何も残っていなかった。
ただその書の表紙がより禍々しい紫色に変じていた程度であろうか。
「くく、心地良いのぅ……さて、行こうかや?」
僅かに青ざめた仲間達に笑いかけ……彼女らは討伐を終えたのであった。
そして数ヶ月の間、悩んでいた少女・ロストであったが。
「もうダメ、流石に限界……」
本日、大荷物を抱えたまま2度の爆発罠を喰らった事で最早余裕はなくなっていた。
(そうよ、やっぱり頼らせて貰おう。それに分家の人達ともそこまで顔を合わせてる訳じゃないし。
ええ、きっと大丈夫よね……よし、行くわよ私っ)
そう勢い込んで親戚……元冒険者の槌使い・ハーグ宅を尋ねたのだが……。
「ん?何だ、本家の嬢ちゃんじゃねえか。お前も冒険者になってんのか?」
(何で顔見ただけで分かるのよ~!?)
目論見はあっさり失敗、一瞬で看破されて凹む少女。
「あの……どうして私ってわかったの?」
「あのなぁ、俺は一応お前のおしめだって変えた事があるんだぜ?オマケにこれだ」
そう言って溜息混じりに彼が差し出したのは、本家からの手紙。
「うちの末娘が家出して冒険者になってるそうです(以下これまでの経歴がぎっしり)
多分、荷物の重みなどに耐えかねて数日中にそちらに行くと思いますのでよろしくお願いしますね」
そう、彼女の兄の筆跡で書かれている。そういえば兄はやたらと調査・記録が得意だったと思い出し。
これまでばれていないと思っていた行動が実は筒抜けだった事実に軽く凹む。
「で、どうするんだ?ここに住むか?家賃・食費は格安にしとくぜ?」
「……うん、よろしくお願いします……」
何処か煤けた背中で呟く彼女。こうして正式に、新たな一名が加わりましたとさ。
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