｢だぁっ、もう、こっち来るなよー！観察出来ないじゃないかっ！！｣
そこらの店でも手に入りそうなショートスピアを振り回しオーカーゼリーの攻撃を凌ぐ青年。
モンスターの研究者であり教授でもある親に言われ、魔物の生態調査をさせられている彼は。
無事に一年を乗り切り、それなりに立派になっていた。
革鎧に所々解れた学生帽、ショートスピアという出で立ちの彼。

｢このっ、このっ！……ふう、コボルド退治完了ー……これじゃ戦闘能力調査じゃないか……｣
何とか依頼を終え、愚痴をこぼしつつ気付いた事をメモに纏めていく。
……だが彼は知らない、彼が愚痴った内容こそが真実を突いていたという事に。
取りあえず怪物ハンターと呼ばれるまでは帰ってくるなと言われているとか。

彼の受難の日々はもうしばらく続きそうだった。






一方、薬売りの少年ロランであるが。

｢え……えい、えいっ！｣
狼の襲撃を受け、少しサイズが大きくブカブカだった革鎧を着た小柄な体が震える。
まだ声変わりもしておらぬ、可愛らしい声をあげつつ必死に剣を振るう彼。
子供の遊戯でも見ている様で、敵の中にも何だか和んでいる者が居る様な……？
と、そんな空気も察知することなく(必死な為)、飛び掛かってきた狼を何とか退ける。

｢あぅ～、怖いよぅ……おじさん、助けて……｣
彼は心中で頼っている親戚の顔を思い浮かべる、と、安心してきた……が。
何故だろう、心拍数が少し上がり頬も薄く染まっている様な……？

｢う、ううん、そんな事無い、ボクは男の子だもん、そうだもん……｣
左手に巻き付けられた｢セリエ一族乙女同盟｣と書かれた腕章は敢えて無視。
そうしないと色々大変な事になる気がして……。

ほぅ、と溜息をつく仕草は何処か艶めいた熱を帯びていた。







所変わって、元学者の魔法使いセラはと言えば。

｢ふむ、愛用の杖もなかなかじゃが……この魔導書も良いのう。闇の書か、ふふふ……心地良いわい｣
年端もゆかぬ幼い少女の声色で囁かれるのは老成した、愉悦を含んだ言葉。
その手に持った魔導書はありふれた代物ではあった……そう、闇という属性の範疇ならば。

｢くく、しかしこれはうちの若造どもに持たせるのは少々危険かもしれんのう。怖や、怖や｣
薄く笑みを滲ませながら、立ち塞がるオークを書より放つ影で包み込む。
影が消えた後には生命力を吸い取られ衰弱したオークの姿。
更に最早助かる見込みもないであろうそれに影を幾重にも巻き付けると、バラバラに解体した。

｢うむ、良いのう。儂にとってはごく僅かとは言え寿命も延びるか。ヒッヒッヒ……次はど奴じゃ？｣
少女の異様な言動に仲間達ですら若干退いている。
それを気に止める事もなく、魔女は魔物達の命を次々と奪い取っていくのだった。