彼女の名はアンジェ、くすんだブロンドの髪をした15歳のカード占いを生業とする少女であった。
彼女の名は天使から付けられた名であるが、あくまでも呪術に携わる者の通り名。
その本名はエンジェスと言い、その小柄で可憐な容姿にはピッタリであろう。
そして彼女は各地に分家を持つセリエ家の中でも、変わった家出身の少女でもある。
彼女の家の者は皆占い師や術者を営みつつ、都会の闇の中でひっそりと生きていた。
彼女の父も母も年上の兄弟も、未来を見通し運命を読む力を持ちながら隠者の如く暮らしている。
そんな姿を見て自分もそうなりたいと、占いの修行を積んでいた彼女だったのだが……。
「また、同じ結果……」
ここ最近、自分の未来を占う度に同じカードが示されるのだ。
自分を示す灰色の隠者のカードだけが同じならばまだ納得も出来る。
しかし自分を示すカード以外にも数枚、何度やっても現れるカードが存在していたのだ。
解釈に悩み、また未熟さもあるのだと思い彼女はカード占いを教えてくれた祖母に相談した。
「ほぅ、この隠者がお前かえ。なるほどのう……お前もそう呼ばれる位にはなったのかい」
椅子に深く腰掛け、くゆくゆとパイプを揺らす祖母は数枚のカードを更に見つめる。
「……家守る鳥。これは山の小娘じゃな。覚えておるかえ?」
祖母の言葉に僅かに考え込み、小さく頷くアンジェ。
恐らくシェリーという名前の、遠縁の親戚だ。薬になるキノコを幾度か送って貰っていた。
「それに恋の槍……これは町の奴の所の孫娘かの。一度死にかけたらしいが」
そう言われて、自分より1つ2つ年上のミリィという少女を思い出す。確か冒険者になったと聞いた。
小さい頃に恋愛相談なる名目で散々話に付き合わされたのは、今でもしっかり覚えている。
「この牙持つ鉄槌は……3番目の妹の所の小坊主じゃな。ほ、なかなか……」
これは恐らく、随分小さい頃に一度だけ会った年の離れたはとこだろう。
名前は確かハーグと言ったか。奇異の目で見られる事の多い自分達にも気軽に声を掛けてきていた。
親戚一同が集まった時に自分を含め小さな子達の面倒を見ていたのを覚えている。
……まあ正確には、親戚に付き合わされた恋愛相談の相手が彼だからなのだが。
「ふむ、灰色の隠者は逆向き。しばし表へ出るか……宿り木は鉄槌、見守るは鳥と槍。
道の先には黄金の夢と奈落の洞穴……ひひっ、これは修行に出ろとの暗示じゃなぁ」
薄々予想していた祖母の言葉に、小さく頷き返すアンジェ。
「小坊主も冒険者になったと聞いておるからの、頼ってみるがええ。
儂からも言付けを書いて寄越してやるから、それを持ってお行き。まあそんな物はいらんじゃろうが」
祖母に小さく礼を述べ、旅の準備を整える。
……そうして数日後、槌使いのハーグと呼ばれる男性の家に、新たな家族が加わったのだった。
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