「……引き際を誤ってパーティ4名死亡。貴方も最期に逃げ遅れたわ。残念」
淡々とテーブルを挟んで向かいに座った青年に言うのは占い師のアンジェ。
その言葉にがっくりと項垂れているのはいよいよ明日、初の冒険に旅立つ青年セドリック。
「ああ……でもさ、それって一番運の悪い様な時だろう?だったら……」
「楽観過ぎ。これ位、ダンジョンでは良くある事」
何とかして否定の言葉を欲しがるセドリックに、お茶を運んできた少女シェリーが告げる。
彼女とて一度は冒険者として戦い、倒れた身である。その言葉には重みがあった。
「でもさ……何で親玉のムカデに連続で二度も噛まれなきゃ……」
「俺はワイバーンに3連続で爪と牙を貰ったぜ?セドリック。結局は運なんだろうさ」
そこに現れたのは先日死にかけていた(むしろ一度死んだ)この家の家主・ハーグ。
包帯で吊られ固定されている左腕が、その言葉の真実味を深めていく。
「まあ何があっても受け入れるのから始めなきゃなぁ……やってみりゃ意外と楽だぜ?」
運が悪けりゃ2,3回で死んじまうが、と呟く声は聞かなかった事にして。
セドリックは帰りたいと訴える思考を何とか押さえるのだった。
一方その頃、船の修理費を貯める為に冒険を続けている女性・エールはと言えば。
「ヒャッホー!これで何体目だっけねえ……そらそら!びびってんじゃないよっ!」
愛用のハンマー(船体修理用)を振り回し、敵を次々にのしていく。
何度か前の冒険で手袋を手に入れた為、思い切り振り回せる様になったのだ。
「しっかし……ゾンビだのグールだのが多いねぇ……もうすぐ夏だし、嫌だわ……ていっ」
襲ってきたゾンビを殴り飛ばして憂鬱そうに呟く。
「でもなんだろうね……この間の危うく死にかけた依頼の方が面白く感じるってのは……。
あ~あ、アタシもやっぱり兄貴の妹だって事なのかねぇ……」
どうやら自分にも立派に戦闘中毒の血が流れているらしい。
そんな事をグールリーダーを殴り飛ばしつつ再確認したのであった。
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