「あー、もう、何なのこれっ……!」
巨大なトカゲに爪を喰らいながらも、船体修理用のハンマーで殴りつけトドメを刺す。
これで2体目、確実にオーバーワークだ。全身が重い上に傷も多い。
「畜生、依頼人に嵌められた……?ああ、まだ全然修理費稼げてないのにっ」
悪態を付きながら、手元の指輪を弄る。
以前の冒険で手に入れた、年代こそ古い物のあまり価値はないと言われたお守り代わりの指輪。
赤色と青色の2つの種類で、お気に入りだったのだが……。
「こんな所でやられる訳にはいかないって言うのにさ……付いてないね」
洞窟の奥から現れたるは超巨大トカゲ。その威容に体が硬直する。
「……こん畜生……っ!」
噛み付かれたお返しとばかりに、ハンマーで殴りつけるも全く利いていなさそうだ。
もう一度深く噛み付かれ、一気に意識が遠のく。
(ああ、帰りたいな……もう一度、みんなと船であの海にさ……死ぬ時は海って決めてたのに)
仲間達が次々とやられていく中、そんな事を考えるエール。手元で指輪が割れた気がして……。
「……あれ、生きてる?それとも天国?いや、妙に安っぽい天井だし……なら地獄ぅ?」
「おやおや、随分な物言いじゃの。小娘、せっかく助けてやったというに地獄扱いかえ」
意識が戻り思わず漏れた言葉に反応する声が一つ。幼く聞こえるのにやけに時代がかったこの口調……。
「……げ、メトセラのおばさん?」
「誰がおばさんじゃ、貴様の方が儂より見た目で10は年上じゃろ。儂は今も13歳ぞ?」
「いや、実年齢3桁に届いてる癖にそんな事言われても……」
彼女を解放していたのは一族内の古株、通称はセラ。メトセラの魔女と呼ばれている。
世界中に散らばる血族であるが故に種族もまた多種多様であり……。
彼女の一族は長命不老の種族と交わり、千年近く生きると言われている。
6つを越えた辺りからは成長は15~20年で常人の1歳程度らしく、加えて30歳程で老化も止まる。
それ故に120と幾らかを数える彼女の外見はまだ幼い子供のそれであった。
「ふん、まあ良いわ。お前が目覚めたら伝えてくれと頼まれておる。船が直ったそうじゃ」
「へえ、船が……え?本当!?」
「うむ。お主の持っておったあの指輪、願いを叶える物らしくての。主の生還と船の修理を叶えた訳じゃ。
もっとも今は出航したらしいでな、半年後に戻ると伝言を頼まれた。確かに伝えたぞえ」
「あー、置いてけぼりか……うん、おばさんありがと。それじゃ半年は暇かぁ……」
「くく、なら丁度良いわ。儂をあの小僧の所へ連れて行け。治療費代わりじゃ」
「え、ひょっとしておばさんも……?」
「久々に旅に出るのも悪くはない。何、長命不老に加えて死んでもその内生き返る訳じゃし。
刺激がない日々には飽き飽きでの。学者としての活動も一段落付いた。まさにうってつけの暇潰しじゃ」
楽しげに語る魔女……セラを眺めて溜息をつくエール。
「あーあ、こりゃ何言っても無駄だね……兄貴、がんばれ」
どうも近い内に、新たな家族が増えるんだろうなぁと達観した彼女であった。
一方魔物の生態調査の為に冒険に送り出された彼、セドリックはといえば。
「畜生、絶対やばいって、僕はそもそも荒事には向いてないって、だあっ!」
オーカーゼリーやコボルト、狼に剣を振り回しつつ応戦する。
魔法を専攻で習っていたが魔法を使う為の杖は渡されなかったのだ。
何でも魔法を使えるとすぐ敵を倒してしまうから、らしい。両親の素晴らしい方針だった。
「がっ、ホントに丸太落ちてきた……この帽子無かったら危なかったな……」
頭に被っているのは綿が詰め込まれた不格好な、質の悪い帽子。
だがそれが彼の命を救い、命からがら戻って来れたのであったとさ。
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