龍の血を引くと謳われる、寡黙なる青き姫君の治める国のほんの片隅。
かつてはそこそこに大きく賑やかな都がありながらも今は寂れ打ち捨てられた街の残骸。
そんな誰からも忘れ去られた場所に、その男は立っていた。
その男の名はティーク。引き絞った鋼の如く鍛えられた頑強な肉体。
そして若くも老いても見える、深い思考を秘めた顔立ちの人間種である。
彼は元々旅の鍛冶師の息子に生まれ、その技術を学んでいた。
しかし旅の途中に家族は顧客であった人間種の手により殺害されてしまう。
その日から彼は人間種という物を酷く忌み嫌う様になった。
人間でありながら人間と関わる事を厭い、異種族と交わる彼は変わり者と呼ばれ。
段々と彼に関わる人間は居なくなっていくがそれを気に止める事もなく。
本来は異種族たるエルフ族やドワーフ族と親交を温めつつ、彼は日々を過ごす。
やがてとある里のドワーフ族と共に生き、その技術を、心得を、在り方を学んだ。
その結果彼は人里からは忘れ去られ、ドワーフ族からは仲間として認められたのである。
そんな彼に転機が訪れたのは新たな女王・フィリンの即位である。
彼は人間が嫌いであった、人間など信じられぬと思っていた。
それでも、惹かれた。気が付けばフィリン女王に心を奪われていた。
完全なる人間種ならばそうはならなかっただろうか、と自問するも既に遅く。
彼女の為に自分の力を使えるならば、微力であろうと…………彼はそう考えた。
そして世話になった里を後にして男はこの忘れ去られた地を訪れた。
瓦礫と古びた廃屋に囲まれた在りし日の残骸の街、それでも良いと思った。
謁見の叶った女王はまともな土地を与えてくれようとしていたらしいが、固辞した。
己はこの土地が良いのだと、そう言って。
そうして彼はその古き土地に里を作り始めた。
始めは元の里より着いてきた仲間数名と共に、今は新たに仲間も増えて。
そうして今日も、彼はその古き土地の里に立っている。
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