ある所に、ぴよ子と呼ばれる小鳥を連れた一人の少女がおりました。
彼女は毎日ぴよ子と一緒に、色々な場所を巡っています。
……おや?今日は少しだけ、いつもとは違ったみたいですね?
「ぴよ子ー、ちょっとこっちに来てー!」
幽霊船に乗り込む為に、港へ向かっていた途中の事。
少女が何かを見つけて相棒を呼んでいます。
「どうしたッピ?何かあったッピ?」
少し先を飛んでいたぴよ子が羽ばたきながら戻ってくると……。
「……ピー、ピー……」
そこには親とはぐれたのか、小さく鳴いているヒヨコ虫の子供が一匹。
うるうると瞳を潤わせて見上げています。
「この子、迷子みたいなんだけど……」
「近くに親はいないッピ?」
ヒヨコ虫を抱きあげてあやしながら、相談する少女とぴよ子。
けれども近くにヒヨコ虫はおろか、人の気配すらありません。
「うーん、どうしようか。親を捜した方が良いと思うけど」
「だったら一緒に連れて行って、探してみるッピ!」
「……ピー、ピー?」
良いの?という感じの視線に、少女とぴよ子は頷きました。
さて、いつもとは少し違う一日の始まり始まり……。
まずは最初の目的地、幽霊船に向かう事にした少女一行。
肩にはぴよ子、頭にヒヨコ虫を乗っけて歩いています。
「おやおやお嬢さん、今日はいつもより賑やかだな!
そっちの見ない顔のヒヨコ虫も、海は好きか?はっはっはっ!」
ちょっと顔が怖い海洋ギルドのおじさんが、声をかけて来ました。
丁度良いので、ヒヨコ虫の親の事を聞いてみる事にします。
「あの、この子は実は迷子なんです」
「この子の親を捜してるッピ……見てないッピ?」
二人は説明も交えて尋ねてみますが、おじさんは首を横に振りました。
「すまんが見てはおらんなぁ、良かったら探してみるぞ?」
此処には冒険者が沢山来るからな、と言っておじさんは笑います。
そのちょっと怖い笑顔も今はとっても頼もしく見えました。
さて、おじさんにお願いしてから船出する事数十分。
目の前に霧が立ちこめて、幽霊船がその姿を現しました。
「さ、二人とも行くよー!」
「今日もがんばるッピ!」
と、船の中に意気揚々と入っていく二人でしたが……。
カタン 「ピッ!?」
ガタン 「ピヨッ!?」
と、ヒヨコ虫は慣れていないのか怖がっています。
小さな物音が聞こえる度に、びくびくと震えだし……。
「ヒヒ、お客さんが来た……バァー!」
突然飛び出してきた幽霊が大声で脅かした、その途端。
「ピ、ピ、ピヨーーーーーーー!!」「ギャーーーー!?」
大きく鳴いたと思うと、パニック状態なのか少女の頭からジャンプ。
幽霊を踏みつけて、凄い勢いで船の中を走り回っています。
「わ、大変ーー!待ってー!」
「待ってだッピー!」
固まっていた二人も慌てて追いかけ、船の中を鬼ごっこ。
ちなみに二人ともしっかり幽霊を踏んでいたとか……。
「待ってーー!」
「待つッピーー!」
「ピヨピヨーー!!」
普段のホラーな雰囲気は何処かに消えて、幽霊船は大騒ぎ。
「ようこそ!わがポセイドン号へ。私はレナータ・パスカル。この船の船ちょ……」
途中で何か喋ってる偉そうな人を見かけましたが、さらりとスルー。
あ、何だかしょんぼりした雰囲気で船長が落ち込んでいます。
「ピヨッ!?」
「捕まえたー!もう大丈夫だからね♪」
「もう安心だッピ♪」
結局入り口に近い所で、ヒヨコ虫を無事捕まえる事が出来ました。
今日は疲れたので、少女一行はそのまま帰る事にしたようです。
――――ちなみに。
「そう言えば、追いかけてる途中で誰かに会わなかった?」
「誰か居たんだッピ?」
「ピヨー?」
帰りの船ではこんな会話が行われていたとか。