「邪魔をなさるとは、どういう了見ですかな!?」
初老の男性人形の声に周囲の観客人形は眉を顰め、少年人形はキッと男性人形を睨み付ける。
少女人形は少年人形の後ろに隠れていた。観客の視線の力もあってか男性人形が怯む。
「くっ……私は諦めませぬぞぉ!」
そう言うと、馬車に乗り引き下がった男性人形。
その姿が闇夜に消えた後、観客からは歓声が上がり少年と少女の人形は地面にへたり込んだ。
「怖かったぁ……」「私もよ……ふふっ」
二人の人形は生きているかの様に笑い出す。音楽も心なしか明るい物に変わった。
「でも……これから、どうするんだい?」
「さあ、でも貴方といられるならそれで良いわ」
少年人形の声に、少女人形は笑って答える。
「そうだ、森の奥に妖精さんの住んでるお屋敷っていう話を聞いたの。見てみたいとは思わない?」
と、少女人形が今思い出したとばかりに手を叩き、誘いをかけてきた。
「妖精……?危なくないのかな?」
「うふふ、恐がりなのね……ちょっと見に行く位、大丈夫よ」
少年人形の問いを軽く笑う少女人形。
……モチーフとした物語では、これが悲劇の幕開けとなった。
軽い気持ちで向かった妖精の屋敷、そこに住まう妖精はこの地に恵みを与える代わりに不可侵を命じた。
この地の領主が代々受け継ぎ守り続けてきた禁忌、元の物語で彼らはそれを犯してしまうのだ。
「……やっぱりダメだ。屋敷を構えてるなら凄く力のある妖精だろう。軽い気持ちで会いに行っちゃ行けない」
旅をしてると、そこで危険な目に遭った連中の話を聞く事も多いんだ、という少年人形の真剣な声に、
少女人形も笑い飛ばすつもりが無くなったのか素直に頷いた。
「……確かに、お父様達も絶対に森に入ろうとしないし……わかったわ。行くのは止めましょう」
少女が微かに未練を感じさせながらも、諦める意志を伝えたその時。
「それが懸命よ、お嬢さん達?」
背後から割り込んできた新たな声に二人の人形が振り返れば、そこに居たのは美しい妖精の人形。
「下手に入ればこの国ごと大変な事になったかも知れないわ。良い恋人が居て良かったわね、お嬢さん?」
「「そんな……って、え、だ、誰が恋人ですかっ!?」」
妖精人形の言葉に顔を青ざめさせた少年と少女の人形だが、続く言葉に真っ赤に顔を染める。
「息もピッタリじゃない。それが恋人ではないなら何なのかしらね?ふふ……二人とも、祝福するわ」
呆れと愉快さを滲ませる声で呟き、妖精人形は姿を消した。
残ったのは呆気にとられた少年人形と、頬を染めた少女人形だけ。
「ねえ、さっきのってどういう……」
「え、え、え~~~!?」
少年人形の問いかけは少女人形の絶叫に掻き消された。
……そう、この土地では、妖精の祝福は婚礼の際に与えられる特別な物なのだから。
それを報告する為に少年人形を連れて家へと戻った少女人形。
その後で一波乱あったりもするのだが、それはまた別のお話……。
語り手がそう呟いて本を閉じる音と共に、人形も黒子も、何もかもがその場から消え失せた。
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