「へ~、だったら一軒一軒回ってお手伝いをなさってるんですね」
「ええ、そうなんですよ。全く人使いの荒い……」
番頭さんが案内されたのは少女が客分として住まうお城の一室。
こっそり隠し部屋が出来ていたり一部が工房になっているのは追求してはいけません。
「それじゃあそうですね……申し訳ないですが書庫の目録を作って頂いても良いですか?」
「こりゃ大変そうですね……」
軽い雑談などをかわしつつ、少女の部屋から移動した先にあった部屋。
そこはやや薄暗い書庫、蔵書は少女や彼女の操る人形達が集めた物らしく。
「あ、後そちらの扉の奥には工房に繋がってるので決して行かないで下さいね~」
開けたら普通の人だと引き込まれちゃうかもしれませんから、と極めて明るく軽いノリの少女。
その様子に冷や汗をかきつつ番頭さんは目録を作り上げてくれました。
ドアの向こうからひそひそと話す声や無数の視線、手招きする手を見ないふりしつつ。
小さな女の子が数名本棚の向こうから覗き込んでたなんて見ていないのです。
うっかり手を滑らせ落とした本を追うように白い手が伸びてキャッチ、元に戻したりなど無く。
ましてや膝の上にちょこんと腰掛けられじーっと無表情に見上げられているなんて……っ!
そんなこんなで数日の奉公を終えた番頭さん。
仕事ぶりに満足しつつ最後に一働きして貰いますねと微笑む彼女に安堵し……。
数十分後、再度蒼白な顔をする事になったのでした。
「あの、見間違いで無ければ此処は……」
「ええ、竜の巣ですよ~?はい、番頭さんこれ着て下さいな♪」
手渡されたのは妙に重く所々が膨らんだ黄色い上着状の防具。
中に鉄板でも仕込んであるのかと考えていた番頭さんですが……。
「あ、中に爆薬詰まってるので火気厳禁ですよ~♪」
さらりと聞こえた台詞にフリーズ。同時に何か大きな生き物が逃げる気配がします。
にこにこ微笑む少女が悪魔に見えたと後に番頭さんは語ります。
そしてその夜謎の金縛りに悩まされるのは別のお話。
「あの、何でそんな危険な物を……?」
「……破壊力って、最高の抑止力になりますよね?」
さらりと答えて竜の巣を歩き回る少女と番頭さん。
しかし危険察知能力の高い竜は当然現れず……。
「護符ですか……仕方ない、ではコインマンに行きますよ~」
「そんなご無体なっ!?」
そう、消費扱いなら人でも物でも竜巣で敵にあわないと消えないのです。
「さてやって来ましたコインマン……さ、番頭さんこれを♪」
「これは……って煙管!?火も付いてますよねえ!?」
「ええ……さ、それでコインマンをぼっこぼっこと」
「引火したらどうなると思ってるんです!?」
「どかーん」
「4文字っ!?」
そんな会話を効かされるコインマンがちゃりちゃりと震えている気もしますがするー。
「ではボクは応援してますから……さ、ふぁいと~♪」
こっそりダメージ肩代わりの魔法道具「身代わり君」を懐に忍ばせて送り出し。
鈍痛を耐えつつ観戦している少女……一方番頭さんは。
「ええい早く倒れて下さいよっ!(がきんかきん」
「チャ、チャリンっ!こっち来るなっ!(逃げ」
「ええい逃げるな動くな火花が散るってあぁぁぁぁ!引火したっ!(しゅぅぅぅぅぅ」
「「――――ッ!」」
どかーん。
その日、ザフ王の遺跡に謎の爆音が響き渡り少女はザフの剣を手に入れて。
こうして少女の元で奉公を終えた番頭さん。
所々煤けた姿でお土産を持たされ、無事お帰りになりましたとさ。
……後日、帰り着いた自室に白い小さな女の子が出没するようになったとか。
無表情のままじーっと机の下や押し入れの隙間から見つめてくるのだとか。
そんなお話しがあるとか無いとか……?
真相は闇の中。
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