彼女の名はミリディアナ。周囲の人々は皆「ミリィ」の愛称で彼女を呼ぶ。
彼女の家は全国各地に多数の分家を持つセリエ家の、それなりに大きな分家の一つ。
なかなかの都会に居を構えた、経済的にも恵まれた家だった。
「ミリィは大きくなったら何になりたい?あ、兵隊はダメだぞ。俺みたいになっちゃうからな」
そんな事を笑って言いながら、小さかった自分を抱き上げてくれた従兄弟のあの人。
年も一回り以上離れた、最初におじ様と呼んだらとても悲しげにお兄様だ、と言った男性。
大好きな父や母が時々家に招いていたそんな彼に、彼女は憧れにも似た感情を抱いていた。
あの時「じゃあ、兵隊さんになればお兄様みたいになれるのね?」とまだ5歳だった彼女は尋ね。
その台詞に彼女の両親は思わず吹き出し、彼は困ったように頭を掻いていたのを覚えている。
そして、その台詞は子供特有の気まぐれなものでも何でもなかった。
彼女は幼いながらも必死に武術を学び、彼のようになりたいと頑張った。
気付けば自分の家を守る衛兵達と共に来客時の警護などを任せられるようになっていた。
彼女が13歳になった時、あの従兄弟が兵士を辞めて国を飛び出し、冒険者になったと聞く。
彼の事だから、きっと勢いに任せた挙げ句戻るに戻れなくなったのだろう。
父親から話を聞いて、彼女は密かにそう考えていた。そしてそれは見事的中していたりする。
そして数ヶ月前、彼は依頼を受けてこの町にやって来ていた。
彼女が町に出た際、怪物退治の依頼を終えて彼が酒場に戻る所を偶然見かけたのである。
気付けば必死に追いすがり、外聞も気にすることなく彼の服の袖を引いていた。
その時の彼の表情はとても驚いた様子で酷くおかしかった、けれど。
「ミリィか……随分とまあ、大きくなったなぁ。それに凄く可愛くなったぞ」
そう言って頭を撫でる彼の手はとても大きく、包まれるように暖かかった。
彼女はその日、久方ぶりに憧れの従兄弟と両親と共に、楽しい時間を過ごす事が出来たのだった。
……そして、彼女は密かに彼の後を追う事にした。
自分も冒険者としてやっていきたい、憧れた彼のようになりたいと両親に願い出たのである。
両親は複雑な顔をしながらも、最後には折れて彼女の門出を認めてくれた。
しかしその条件は、この国での成人を迎える……つまりは15歳になってからと言うもの。
その数ヶ月をじりじりと焦がれるような気持ちで待ち続け……そして、彼女の旅立ちの日が来たのだった。
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