「……せいっ!」
呼気と共に短い気合いの声を放ち、槍を構えて魔物を貫く少女。
彼女の名はミリディアナ。ここに至るまでに3体の魔物を仕留め、先程4体目のゴブリンを討伐した所だ。
初の冒険の内容はゴブリンの討伐。この依頼は誰もが始めに通る、いわば実戦訓練の様な任務である。
「ふう……皆様、お怪我はありませんかしら?」
同行者は自分を含めて男女が3人ずつの計6人。
女性3人は皆15歳と同い年でありすぐに打ち解けた……最も始めはこの口調に面食らった様子だったが。
男性達は皆年上だった。しかし最年長者である冒険者も、憧れの「お兄様」に比べれば若い。
多分、幼い頃に出会った彼より2つか3つ上。24、5歳といった所だろう。
「この先が最後の部屋の様ですわね……皆様、お気を付けて」
屋敷の警護をしていた時から愛用している槍を構え、部屋に雪崩れ込む。
中にいたゴブリンの一体に、しっかと構えた槍ごと突撃し……見事、一撃で仕留めた。
今日の成果は魔物5体に金貨がおよそ1500枚程。初の冒険としてはかなり幸運だったのだろう。
「お兄様は、今頃何をなさっているのかしら……」
まだ幼さを残した少女の声が小さく周囲に吸い込まれていった……。
「くそ、また敵かよ……ああ、付いてねぇ。幾ら情報が怪しいっていってもよ……!」
その頃例の「お兄様」ことハーグと呼ばれる男性は戦場の真っ直中にいた。
受けた依頼は巨大な怪物の討伐。だが依頼主の商人は何かを隠している様な態度であり。
どの様な魔物が生息しているのかを語る事は無かった為情報は胡散臭い物だった。
到着した森には罠こそ無かったものの、魔物の坩堝と化していたのである。
「潰れやがれっ、うらぁっ!……旦那、トドメを頼むっ!!」
巨大なサソリに連続してモールを叩き込み、後方へ跳びつつ叫ぶと同時。
パーティ内で最年長の男性が放った氷の魔法がサソリにトドメを刺した。
その前にもインプの群れに襲われており、彼はインプを一撃の下に叩き潰していたりする。
ちなみにサソリは宝箱を守っていたらしいが、残念ながら開錠には失敗していた。
「かぁ……ったく、またインプかよ……面倒だなぁ」
巨大サソリを仕留めて幾らも進まぬ内に、再度インプの群れに遭遇する。
疲弊していた若いメンバー達は浮き足立っていたが、戦闘態勢を取り戻すのも早い。
恐らく冒険者としての経験は自分より上であろう、18歳と言っていた少女に続きインプに突撃。
モールで一体を殴りつけ、旦那と呼んでいた男性が狙っていたインプに飛ばす。
結果、男性の氷の魔法はインプ2体を纏めて氷漬けにした。
更に振り抜いたモールを腕力のみで振り下ろし、一体残っていたインプを叩き潰す。
更に進んでいくと、そこに現れたのは……数メートルはあろうかという巨大なサソリ。
森の木々をへし折りながら、広場になっている場所に出現してきたそれは異様な迫力を持っていた。
更にサソリは見た目にそぐわぬ俊敏さを持ってパーティを襲い、自らも鋏の一撃を食らう。
(危ねぇ……尻尾だったらやられてたかもしれねぇな……)
反撃とばかりに突撃し、頭部に素早く二発モールを叩き込む……と、その瞬間。
「危ねぇ、避けろっ!!」
彼が見たのは自分より10も年下の青年の腹をサソリの尾が貫く瞬間だった。
青年は一瞬びくり、と痙攣すると全身を弛緩させた。周囲に鉄の匂いが立ち込める。
「……テメエェェェェェッ!!」
自らも鋏の一撃を腹部に食い込ませながら、彼は怒号を上げる。
その豪腕をもってサソリを掴みその動きを封じ、その隙を狙い仲間達が攻撃を仕掛け。
「旦那っ!!」
最後に氷の魔法によって、巨大サソリは瞬く間に凍り付き……砕け散った。
残ったのは青年の骸と宝箱が一つ。中にはとても価値のあるであろう斧が入っていた。
「……分かっちゃいたがよ。こんなもんがお前さんの代わりになるかよ。なぁ?」
虚ろな表情を浮かべる死した青年の目を閉じてやり、その肩に背負う。
「その斧、俺は要らねえや……あんたが使ってくれ」
共に戦った女性が斧を受け取ると、皆で森を後にし町へと戻る。誰も、何も言わなかった。
青年の遺体は最寄りの町にて埋葬し、遺品と遺髪を酒場に預けてきた。
その日の酒は慣れた味だったはずなのに、何故か酷く苦かった。