「……っ!!」
ミリディアナと呼ばれた少女が、横たわっていた寝台の上で身を起こす。
見慣れた懐かしい風景……そうだ、此処は冒険者となる前の自分の部屋……!?
「そうですわ、私はあの時……」
そう、いつもの様に冒険に出ていつもの様に槍を振るい、順調に進んでいた彼女達。
しかし爆発の罠に巻き込まれ、重傷を負った直後に敵のリーダーと遭遇。
コボルトリーダーの剣を受け、意識が朦朧としながらもコボルト一体を刺し貫いたのは覚えている。
「ああ、気が付いた様だねミリィ。良かった良かった」
記憶を確かめる様にしていた彼女の元に、久しぶりに会う父が現れた。
「君は一度死んだ……覚えてるかい?でもね、そのリボンのおかげで、戻って来られたんだ」
誕生日に従兄弟……「お兄様」に貰ったリボンを指さしつつ、父が言う。
「そのリボンには身代わりの魔法が込められてるってハーグは言ってたんだが……本当だったらしいね」
効果がなかったらなんて彼はぼやいていたけど、そう語る父の目は無事を喜んでいる様に優しかった。
「さて、無事に戻って来られたけれど……ミリィ、君はどうする?また冒険に出るのかい?」
父の言葉にしばらく考え込む少女。その顔に恐怖などはなく……。
「……いいえ、もうしばらくは休みますわ。引き際を誤るなんて、油断も良い所ですもの。
しばらく休んで、気を引き締めてから……旅に出るなら、それからですわ」
そう言って、しばらくの休養をとる事に決めた彼女。
彼女の冒険者としての人生は、一旦此処で終わった。
その知らせを、新たに冒険者となった姪っ子に聞いたハーグと呼ばれる男性は複雑な顔をしていた。
「まったく、ミリィの奴……あのリボンが本物で良かったぜ。シェリー、教えてくれてありがとよ」
「ううん、良い……それよりさっきの話。どうなの?ダメ?」
彼に情報をもたらしたのはシェリーと呼ばれた少女。ミリィより少し年上で、山間の集落で狩人をしていた。
彼女が冒険者となったのは単純な話、ここ数年で山の獣が少なくなった為である。
魔物が増え動物が減れば食糧も減る。故に彼女を始め若い者は出稼ぎの為集落を出たのだ。
そして彼女は各地に散らばる分家を尋ね歩き、雇ってくれないかと持ちかけていたのだが。
「雇って貰うより冒険者の方が割が良いってか?この稼業はハイリスクハイリターンなんだぜ……?」
親戚の少女ミリディアナの家に行った際に冒険者の話を聞き、自分も冒険者になろうと思い立ち。
数年前から冒険者としてそれなりに名をあげている叔父を訪ねてきたのだ。
「わかってる。私が稼いだ分の2割が代価、それで家賃とご飯のお代。後は話を聞かせてくれればいい」
そしてそれなりに稼いでいる叔父の借家に住み込み、冒険の拠点とさせて欲しいと申し出た彼女。
既に最初の依頼を済ませてきたと聞き、唖然としたのだが……。
「……まあ良いや、お前なら人の物を勝手に持ち出したりもしねえだろうしな。
家の管理人ついでに置いてやる。同じ依頼はまず受けられねえからな……精々頑張れよ」
「ん♪」
やがて数十分にも及ぶ交渉の後に、彼女は住処を確保したのであった。
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