英雄の称号を得た男が一人、依頼を終えて一族の冒険者達が集まる屋敷への道を行く。
彼の名はアレク。23の時初めての冒険に出てから丁度19年目、遂に英雄となった男。
既に齢40を超えていながら、年若い青年にしか見えない男でもある。
「長かったなぁ……僕がそうなれるなんて思っても見なかったけれど」
元は旅籠の下働きとして働いていた、大人しい青年であり闘いを好まなかった。
始めに使っていた剣も、長年愛用し今では神速とまで言われる弓も、得意では無かった。
されど長年の修練……半分以上が実践により鍛えられたその弓の技は一族でも屈指。
討伐の達人と呼ばれる程度には、魔物達も屠ってきている。
その腕の良さに一役買ったのは先日大怪我を負って死亡したと思われた一族の同期……。
魔法使いのレベッカの存在があった。互いを良い目標として高みを目指していたのだ。
そのレベッカも英雄まで後5つ依頼をこなせれば、到達していたという。
直接戦闘型や魔法使い型が英雄まで後一歩の所まで来ており、恐らくどちらかから……。
一族の殆どの者はそう考えていたらしい、だが蓋を開けてみれば弓使いの彼がそこに居た。
「さて、皆にも報告しなくちゃね……」
屋敷に戻ったらどうするか、と考える。
自分を受け入れてくれた屋敷の主たる元冒険者、槌使いの男にまず報告か。
そうすれば彼の事だ、きっと手厳しい事を言いながらも喜んでくれるだろう。
一人前に成ったら教えてやると言われていた、壮年になってから年を取ったように見えない理由も、
きっと今なら教えて貰えるだろう。いや、先に同じく老いて見えぬ彼の回りの者達が語るか。
エルフの血を引き老いが遅く長命の自分と違い完全に人間の彼が老いない理由。
昔から非常に興味があった……しかし心の何処かで好奇心は猫を殺すと囁く声も聞こえる。
それに彼の子供達にも冒険の話をせがまれそうだ。
血は争えないという訳か、彼の子供達も非常に冒険への興味が強い。
はっきりと冒険者になるのだ、と明言しているのには苦笑するしかなかった。
ああ、それとも自分よりも後に冒険者になり、先に逝ってしまった者達の墓へ参るのが先か。
死んだと思われて運良く生き延びた者も居るが、それでも死者も多い。
弔いにこの報告を持って行ってやれば、きっと喜ぶだろう。
「まあ、それは帰ったら追々考えるとして……」
今は目の前に見える屋敷、その扉の前で待っている皆に只一言、ただいまと告げよう。
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