一軒の家屋の中からてやあ、うりゃあと気合の入った声が響いている。
声の高さからして女性の様だがその声量と勢いはかなりの物。
やがて数十分に渡る叫び声は、一際大きなどっせい、という叫びを最後に途切れた。
「あ~……終わった終わった、これでしばらく薪に困る事は無さそうだな」
薪割り用の斧を後方へ無造作に投げ、割り終えた薪を運ぶのは一人の女性。
整った顔立ちと陽の光を反射して照り輝く長い髪を持つ彼女はアルマティと言う名である。
「さてと、メシ食ったらそろそろ次の冒険の準備でも……っと、うわ……」
薪を倉庫に仕舞い台所へ向かう彼女だったが、その足を止め呻き声を上げた。
視線の先には汚れた食器が積み重なり異臭を放つ台所。
ずぼらな性格である彼女、掃除や後片付けを後回しにし続けた結果の一つである。
無論室内も散らかっており、寝室は他者が見れば腐海の森と形容するであろう惨状であった。
「……あ~……片付けそろそろやんねぇとな……くそ、エリーゼ達がいればなぁ。
仕方ねぇ、この前黒い龍にやられたリハビリだと思うか……」
今は離ればなれになった親友達を思い出しつつ小さくぼやき、掃除を始めた彼女。
実は冒険に出かけた山中で遭遇した黒竜に深手を負わされ、ようやく傷が完治した所であった。
「もうちょっとで良いロッドが作れるんだよな……アレが出来たらリベンジしてやるぜっ」
好戦的にニヤリと笑い、直後に部屋の片づけで気を削がれつつ。
彼女は今日も鍛錬と冒険の日々を送っているのだった。
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