斑の牙を持った巨象・木の下の大王などのF.O.Eをはじめ、無数の敵が襲いかかってくる。
それらを退けつつ歩を進めていくユグドールズの一同。
もう何匹目か数えるのもばからしい程のアーマービーストを仕留めた、その時。
広がったのは大きな部屋と、奥に続くであろう鉄の扉。
そして……失踪していた筈の、男。恐らく自分達を殺せと命じていた存在が、そこにいた。
彼は真実を知りたければ扉の先に来いと言い残し、扉の向こうへ消えていった。
このまま向かうのは危険だと判断し、一旦戻る方が良いだろうと提案が出される。
それに誰ともなく賛同の声が挙がり、大部屋の右手に隠されていた通路から外へ。
そうしてエトリアに戻った一行は、一旦休息を取る事にした。
ギルドマスターの旅人がシリカ商店へ戦利品を持っていき、装備の開発を依頼する。
一晩で仕上げると笑う彼女と工房の皆に礼を述べ、宿へと戻る旅人と、ユミル。
と、そこに待っていたのはギルドメンバー皆の物言いたげな視線だった。
「……何か、聞きたい事でもあるのか?」
アルケミストの青年が尋ねると、皆は一瞬顔を見合わせ……やがておずおずと手が上がる。
その手の主はメディックの女性・アーリィ。
「ずっと気になってたんやけど、この機会やし敢えて聞いてみるわ……旅人さん?
何であんたはあんなに5層の仕組みなんかに詳しいん?それに……アンタの生まれ故郷って」
「喋れば命は無いと言った筈だが……喋ったのか?」
アーリィの言葉を遮るようにユミルがレンジャー・メロディを睨み付けながら詰問する。
だがメロディはその言葉に首を横に振る事で返し……。
「あたしにも聞こえててさ。耳は良いんだ」
「それに……彼の様子がおかしかったからね。気を向けておくのは当然でしょう?」
ソードマン・リィとパラディン・ミリディアナがどこか苦い口調で語る。
「それにシンジュク、だっけ?窓の外を見て呟いてたでしょ?」
「私達の国の言葉に良く似ておりましたから……迷宮の様子と言うよりは、土地の名前でしたわ」
「それに、ますたぁの声……どこか懐かしんでいる様子の声色でござった」
「あれを聞いてしまっては尋常ではないと感じるでござるよ」
「踏み込むべきでは無いと思った故、お訪ねしませんでしたがのぅ」
ダークハンター・ディアモンドがそう続け、ブシドー・トモエやリン、ワタルにタケシも頷く。
「なので決戦を前に、貴方の話を聞かせて頂きたいのです」
「そうさね、このままもやもやしてると集中出来なさそうだ」
「どうしても無理だというならば、諦めますけれど……」
メディック・トールとアルケミスト・シアが続け、パラディン・エクスが小さく囁く。
「……ボクは知ってる……イヤなら、ボクが話す……」
「そうですねぇ……って、レムちゃん知ってるんですかぁ!?」
そんな中投下されたカースメーカー・レムレスの呟きに一瞬場が沈黙し。
バード・ニーナが皆を代表したかの様に驚愕の声を上げた。
「おい、お前あいつにも話して……私だけだと言ったろう!?」
「いや……本当にユミルにしか話していない筈、なんだが……」
驚いた様子で問いつめるユミルに胸ぐらを掴まれ揺すられつつ、青年は答える。
「ふう……ならば、語ろうか。皆はこれを真実だと思って聞いても良いし、嘘だと思っても良い」
そうして場が落ち着いた後、青年はそう前置きして語り始める。
膝の上には定位置と言わんばかりにユミルが陣取り、一行を睨み付けているのだが……。
「迷宮5層……あそこはかつてシンジュクと呼ばれた場所。俺の生まれた国の首都、その一部だ。
その国はニホンと言い、首都はトウキョウと言った。俺の生まれた場所とは遠く離れていたがね。
その時代、世界には魔物も居らず、魔法や錬金術も表だって存在しては居なかった」
「世界に溢れていたのは科学という技術と、無数の人々、そして科学による弊害。
少なくとも今のこの時代より、人々は豊かで、そして乾いていただろうな……。
安穏とした平和なこの国に生まれた俺が語る資格は無いのかも知れないが」
「俺が何故この時代に居るかは分からない。ただ気が付いたら此処にいたとしか言えない。
並行世界の理論、次元の歪み、神隠し……或いはこれ自体が仮想現実かも知れない。
いずれにせよ此処は俺の本来生きていた時代から遠い未来の世界らしい」
「エレベータもコンクリートも、俺達の時代にはごくありふれた代物だった。
カードキーのセキュリティや電気を用いた機械の制御も、同じ事だ。
だから俺はこの時代に在る筈がないと思っていたものを見て、驚いたのさ」
「だって、そうだろう?もしあの場所こそがかつての俺の国の首都ならば……。
俺の生まれ故郷も今頃深い地の底に在るとしか考えられないのだから」
「……話が逸れたな。恐らく今がいつ頃なのかは兎も角、何が起きたのかは推測出来る。
あの途切れ途切れのメモからの情報だが……残りはヴィズル殿が語ってくれるだろう。
彼は恐らく、随分昔から……それこそ数百年以上、この土地を守ってきたみたいだからね」
淡々と語る青年の声に、誰も、何も言えなかった。
語る事は全て語ったとユミルを伴って立ち去る青年を見送り。
小さく頷き、薄く微笑んで彼等の後を追うカースメーカーの少女にも気付かずに。
ただもたらされた情報をそれぞれの中で、整理し、噛み砕き、理解しようと精一杯だった。
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